FAZER LOGIN翌朝、ソリンは沢の入口で待っていた。
ムジンを見ると会釈し、イヒョンにも短く挨拶した。何もなかったようには笑わなかったが、仕事ができないほど背を向けもしなかった。
長靴の入った袋を差し出した。
「下の道は濡れています」
イヒョンは受け取った。ムジンに履かせてほしいとは頼まず、ベンチに座って紐を結んだ。ムジンは待ってから、手を出した。
必要なときにもらう手は、心地よかった。
三人は低い道を歩いた。水音が近づいた。
* * *
赤い杭は、写真より多かった。
ムジンは上流の小さな岩の段差を指した。機材が通ったあと、水が片側にたまっていた。ソリンは日付が記録されるように撮った。
<門は、昔と同じ音を立てた。車が中へ入ると、ムジンは窓の外を見た。整った木々と芝生。水がたまらないように造られた道。玄関で靴の底は確かめなかった。入る前に、まず自分の名を告げた。使用人はお待ちしていましたと言い、応接室へ案内した。ムジンは戸口で止まった。ペク・ジェギョンが、ソファに座っていた。* * *「昨日より、きちんとした格好だな」ジェギョンが言った。ムジンは答えなかった。父は遅れるという。先に事業資料を説明するよう指示された、と続いた。向かいに座った。ジェギョンがファイルを開いた。林道の拡幅、投資金、工事を止めた場合の損失。最後に、イヒョンの名のある研究資料を置いた。「この人の治療のためか」ムジンの手が止まった。「資料に書いてあるとおりです」「おまえが、ここまで動くとはな」ジェギョンが笑った。* * *「まさか、まだ男が好きなわけじゃないよな」ムジンはカップを置いた。取っ手が受け皿に当たり、音がした。その音に、ジェギョンがまた笑った。「冗談だろ。あのときも、真に受けすぎなんだよ」ムジンは口を開き、閉じた。
オ・ソンウは、屋敷ではなく事務所で会おうと言った。ムジンはイヒョンに時間を伝えた。ソリンの意見書と封筒を持っていくことも話した。イヒョンが同行しようとすると、午後の検査予定を確かめた。時間が合わなかった。「終わったら、電話します」イヒョンが言った。ムジンも同じ言葉を返した。誰と、どこにいるのかを伝える約束だった。* * *オ・ソンウはムジンを見ると立ち上がった。白いものの混じる髪と、ゆっくり動く手が、記憶と違っていた。山へ住所を確かめに来た日は、ただ下りてこいと言う人にしか見えなかった。「お元気そうですね」「ソンウさんも」ムジンは座った。封筒を置くと、ソンウの表情が変わった。「まだ、お開けになっていないんですね」封の状態を確かめ、写真を撮った。内容を断定する前に、事務所の原本と照合する必要があると言った。ムジンが聞いた。「土地のことも、ありますか」「その可能性はあります。ただ、未確認の権利を事業に使えるとは、今は申し上げられません」ソンウは別の書類入れへ封筒を収めた。「原本と土地の記録を確認する時間が必要です」* * *開発資料は、別のファイルにあった。ソンウはまず、
麓の宿の部屋は、小さかった。イヒョンはベッドに座って靴を脱いだ。ムジンは窓を開け、風を通した。説明会の資料を机に置くと、部屋の半分が仕事で埋まる気がした。イヒョンがファイルを閉じた。「これは、明日にしましょう」ムジンは手を引いた。今日することを探し続ければ、さっき見た顔の記憶を押しやれそうだった。けれど、もうイヒョンには見抜かれていた。「今は、休む時間です」イヒョンが言った。ムジンは椅子をベッドの隣へ持ってきた。* * *肩に、小さな草の切れ端がついていた。取ろうとして、イヒョンは手を見た。指の脇に浅い傷があった。沢で枝を動かしたとき、擦った場所だった。「これ、洗いましたか」「はい」「薬は?」ムジンが黙った。イヒョンは鞄から軟膏を出した。手を出してと言うと、ムジンは迷わず差し出した。指の間に薬をのばす間、イヒョンの眉が少し寄った。「僕が怪我をすると、あんなに驚くくせに」「これくらいは、大丈夫なので」イヒョンが顔を上げた。自分の言葉を聞いて、ムジンは口を閉じた。簡単に大丈夫と言いすぎるのは、自分も同じだった。* * *イヒョン
ペク・ジェギョンが、肩をたたこうとした。ムジンは半歩下がった。手が宙で止まったが、ジェギョンは何でもないように下ろした。「見違えたな。ずいぶん大きくなって」ムジンは答えなかった。ジェギョンの視線がイヒョンへ向いた。資料を持つ細い手と、名札を確かめる目だった。「ご一緒ですか」イヒョンはうなずいた。ジェギョンは役職を名乗った。テソン開発、事業協力担当。ムジンが学校を去っている間に、この男はあの家の仕事に入っていた。ムジンは番号札を伸ばした。イヒョンが新しいファイルをその手に渡した。「席を探しましょうか」そこでようやく、足が動いた。* * *説明は長かった。模型の沢には橋と遊歩道があった。木は等間隔に植えられ、水はいつも同じ高さで流れていた。ムジンは写真を見た。雨の降る山は、あんなふうには動かなかった。質問の時間になり、ソリンが手を挙げた。実際の水路と図面の違いを尋ね、現地写真を提出した。発表者は検討すると答えた。イヒョンが、そのあとに質問を足した。「検討が終わる前に、その区域の整備作業を始めるんですか」発表者が資料をめくった。「全体の日程に従って進めます」イヒョンは首を振
翌朝、ソリンは沢の入口で待っていた。ムジンを見ると会釈し、イヒョンにも短く挨拶した。何もなかったようには笑わなかったが、仕事ができないほど背を向けもしなかった。長靴の入った袋を差し出した。「下の道は濡れています」イヒョンは受け取った。ムジンに履かせてほしいとは頼まず、ベンチに座って紐を結んだ。ムジンは待ってから、手を出した。必要なときにもらう手は、心地よかった。三人は低い道を歩いた。水音が近づいた。* * *赤い杭は、写真より多かった。ムジンは上流の小さな岩の段差を指した。機材が通ったあと、水が片側にたまっていた。ソリンは日付が記録されるように撮った。イヒョンは、薬草のある岩の隙間を見た。足元の草とは、見分けにくかった。数枚の葉が岩の影に重なり、その上を細い水が流れた。この小さなものが、自分の検査結果につながっていた。ムジンが低く言った。「日を浴びすぎると、すぐに乾きます」「じゃあ、木も残らないといけませんね」イヒョンの言葉に、うなずいた。数株を別の場所へ移せば終わる問題ではなかった。水と影と濡れた岩が、一緒になければならなかった。ソリンは工事配置図に、その範囲を描いた。* * *現場の管理者が近づいてきた。目的を尋ね、事前の許可が必要だと言った。ソリン
小屋の扉は、すぐには開かなかった。一晩湿気を吸った木が、枠に引っかかっていた。ムジンは肩で押そうとして、イヒョンを振り返った。「少し下がってください」イヒョンは二歩下がった。扉が開くと、懐かしい匂いが出てきた。薪と乾いた葉、長く閉めていた家の冷たい空気。敷居を越えるとき、イヒョンは一度息を整えた。食卓にカップが二つあった。ソリンの写真と同じ場所だった。奥の窓を開けながら、ムジンはイヒョンがカップを持ち上げるのを見た。「本当に、片づけなかったんですね」「使うつもりで」「誰が?」ムジンが笑った。「イヒョンさんと」帰ってきたら、伝えたかった答えだった。* * *説明会は翌日だった。今日は採取場所を確かめて、泊まるつもりだった。医療スタッフと決めた予定どおり、麓の宿を予約してあったが、昼の間に小屋へ寄ることはできた。イヒョンは、初めて寝かされた寝台を見た。記憶より狭かった。ここで背中を向け合って眠った夜を思うと、顔が温かくなった。ムジンが新しい毛布を広げた。「横になりますか」イヒョンは首を振った。「先に、見て回ります」カメラを出した。窓、ストーブ、少し傾いた棚を撮った。ムジン







